「風水と自己投資と、新しい私」
心も体もすっかり疲れ果てた私は、ふと“帰ろう”と思った。
地元に。
でも、実家には帰れなかった。
両親とはうまくいっていなかったから。
父にも母にも、LINEで「地元に戻るよ」とだけ伝えた。
既読はすぐについたけど、返信は来なかった。
1週間後、母からぽつんと一言。
「実家に戻ろうなんて思わないで。そもそもあなたなんて家の中に入れないから」
…そもそも実家に帰るつもりはなかったけど、その言葉に胸が痛んだ。親子ってなんだ?血のつながりってなんだ?
私は地元のアパートを契約して、一人暮らしを始めた。
引っ越しに合わせて、前の家で使っていた物の7割は捨てた。
持ってきたのは、家電一式と、1着のスーツ、数着の服、靴とカバン。
それだけ。
アパートの部屋は築年数の割にリフォームされていて安っぽいけど小ぎれいで、新築のような臭いがあって漂う空気も気持ちよかった。
風水の教えに従って、東向きの玄関には青と白のシンプルな玄関マットを敷いた。
北西向きの窓にはアイボリーのカーテンを選んで設置した。
「ここから、また始めてみよう」
そんな気持ちで、新しい生活がスタートした。
面接用にパンプスを新調して、派遣元に連絡。
いくつか仕事を紹介してもらえたんだけど、その中に“紹介予定派遣”が含まれていた。
それまで一度も紹介してもらえなかったタイプの案件だったから、ちょっと驚いた。
「もしかして、これも風水の効果…?」なんて、思わずニヤリ。
面接では、感じの良いエリアマネージャーと話をすることができて、結果はまさかの合格!
こうして、8社目の勤務先が決まった。
配属先は“営業所の一人事務”。
今までのように誰かに仕事を押しつけられることも、手柄を横取りされることもない。
とにかく、静かで快適。まるで別世界のようだった。
半年後、派遣社員から契約社員に昇格。
アルバイトでもなく、派遣社員でもない「契約社員」になったのは、人生で初めてのことだった。
給料も上がって、ボーナスも出るようになった。
でも、私は生活水準を変えなかった。
同僚が「投資信託いいよ」と教えてくれて、少し魅力を感じた私は、毎月5万円ずつ積み立てることにした。
それでも手元には、派遣時代より多くのお金が残る。
私はその余った分を「自己投資」と「風水の教え」に使うことにした。
洋服や趣向品にはお金をかけなかった。
代わりに、玄関マット・タオル・カーテン・寝具カバーは年に1度すべて買い替えた。
布は邪気を吸い取るもの。だから「ありがとう」と感謝し処分して、毎年新調する。
それが私の新しい習慣になった。
そして、自己投資の一環として始めたプログラミングの勉強。
少しずつできるようになった頃――
エリアマネージャーから「正社員になりませんか?」という打診を受けた。
正直、信じられなかった。
あんなにうまくいかなかった私に、まさかの展開。
嬉しかったけど、あまりにも順調すぎて、少し怖かった。
その頃、彼氏ができそうなタイミングもあった。
でも、会話をしているうちに、頭の中で警告音が鳴った。
「この男は、絶対にやめたほうがいい」
風水のおかげか、人を見る目も育ってきたようだった。
のらりくらりと交わしていたら、その男は別の若い同僚の女性と付き合うことに。
心配していたことは当たった。彼は典型的な“テイカー”だった。
同僚の女性はいいように使われて、結局は捨てられてしまった。
そして別れてからわずか18日後、「俺、結婚するで〜」と職場で結婚式の招待状を配り始めた。
相手は医者の娘らしい。
それを見て、「風水を始めてから悪いことが起きてない」と改めて思った。
風水と自己投資。
そして、数えきれないほどの職場経験。
どれもが、今の私を作ってくれた“武器”になっている気がする。
あの頃は、「こんな人生、なんで私だけ?」と思っていたけど、今は違う。
遠回りしてきたけど、無駄なんてなかった。
どこかで誰かが見てくれているし、努力はちゃんと“何か”につながっていく。
これからの私が、もっと自分らしく笑えるように。
まだまだ、人生は続く。



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